はねゆきノート

片づけノート/お仕事ノート/読書ノート/その他もろもろ

【読書】その「わたしたち」はズルい~林真理子『ルンルンを買っておうちに帰ろう』~

先日、「なぜ林真理子の著作を無意識に忌避してしまうのか」という記事を書きました。

林真理子を読みたくならない理由を印象だけで語ってしまったのですが、そうしたらなぜか無性に読みたくなって。
結局Kindleで読みました。

 見城徹さんも高く評価した出世作『ルンルンを買っておうちに帰ろう』。

今日はこちらの感想戦です。
 
 
その「わたしたち」はズルイ
林真理子さんのエッセイを読んだ印象。たとえば序文。
そしてつまんないもの書いたり、つまんないことしてるのに、どういうわけか、マスコミにおどり出たひと握りのおんな有名人をいじいじと意識して嫉妬している……。
そう、つまりあなたと全くおんなじことばっかりしてるの。
 
これを読んでいたら、ふと、学生時代の友達のことを思い出しました。
何かと「わたしたち」という主語を使う子で。
誰かの批判をしながらも、
「わたしたちには、そういう要領いいことはできないよね」
とか。
自虐するときも、
「わたしたちみたいな自意識過剰はさー…」
のような感じで、なぜか巻き込まれるという(笑)
他人を批判するときも、「わたし」という主語ではできないから、うまく他人を(主に聞き手を)巻き込んで、「わたしたち」にする。
自虐だって、一人で自分のことだけ卑下すればいいのに、勝手に他人を巻き込んで、「わたしだけではない、わたしたち」を主語にする。
ある日私としたことが、イライラしてたのか、ちょっとイジワルな気持ちになって、
「『わたしたち』って、誰のことよ」
と言ってやったら、絶句したのをよく覚えています。
 
林真理子さんの文章にも、同じような巧さ、ズルさを感じました。
 
「(わたしは)あなたと全くおんなじことばっかりしてるの」
 
この人は、読み手を巻き込んで、主語を「わたしたち」にするのがとっても巧み。
あなたもわたしも、同じ穴のムジナよね…という無言のメッセージを送るわけです(結構ロコツですけれど)。女性読者との間に、共犯関係を築く。巻き込む。
それが、のちのちの「嫌いな女」批判で効いてくるわけです。共犯である「わたしたち」に対して、許せない「彼女たち」…という構図で、痛快なエッセイを展開していくわけです。
 
ズルさの極致は、このあたりでしょうか。
 
「書くことが好きなんです」
「広告という仕事に興味があって」
とかまあみんな一応のことをいうけれど、
「有名になりたい」
「華やかな世界に入りたい」
「お金ほしい」
まだ彼女たち自身も気づいていない、ホントの声があるはずだ。
私だってそうだったもの。
 
「あなたもわたしも、同じ穴のムジナなんだから、あなたも一皮むけば同じ欲望にまみれているでしょう?」ということですよね。
これは本当にズルイ技です。
否定すれば、「それはまだあなたが気づいていないだけ」「お高くとまっているけれど、本音はちがうんでしょう」と切り返されるんですから。
もはや、どう返しても「書くことを志向するすべての女は、林真理子と同じ欲望を抱いている」という結論にしかならないエッセイなんです。
私なんかは腹が立ちますが、もちろん、すごく深く共感する(あたしもまさに、気づいてなかったけれど、同じ欲望を抱いていたわ…!みたいな)人もいるでしょう。
 
おそらくこのエッセイは、女性が読むと「すごく共感するか、すごくムカつくか」のどちらかなんですよね。共感した人もムカついた人も結局は言及してしまいますので、そりゃ売れるでしょう。
どちらにしろ感情を大きく振れさせる、という意味では、すごく得難い文才なのかも。
 
男性は「女性の本音」として面白く読みます。
こんな極端なことを考えている女ばかりではないということは、作者も男性読者も百も承知ですが、それを「女性の本音」として、娯楽として読むのです。この意味では、作者は男性読者とも巧みな共犯関係を築いているわけです。
 
著者は「言葉のプロレスラー」を自称してますけれど、タックルというより「銛打ち」に近いと思いました。
過たず獲物の心を突き刺し、手繰り寄せる手つきが。
 
 
もちろん真理はある
ただ、共犯関係をつくるズルさも含め、人間の心の機微、真理を書いてはいる…とは思うんですよね。
(世界観が自意識過剰でいびつなだけで。)
「私が人に好かれるのは」
いいかけてやっと気づいた。
「私が人に好かれるのは、私がなにももってないからじゃありません?!」
こういうのとか、すごいなと。
 
 
結論、またこの人の本を読んでしまう気がしますね。
ものすごく感情を振れさせる力を持っているから。
何だか違和感がある、好きになれない部分がある、受け入れられない部分があるので、それが引っかかってまた読んでしまうと思います。
 
好きなものより、嫌いなものとその理由について語るときの方が、人は饒舌になるんですね。
 
銛で突かれてますからね(笑)
 
以上はねゆきでした。